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生きてきた証、そして続いていく想い〜窪美澄さんの『トリニティ』

窪美澄さんの『トリニティ』。

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装画は、宇野亜喜良さんです。


時代は1960年代後半。
銀座の出版社で出会う3人の女性たちの物語です。

第一線で活躍する凄腕ライターの女性、東京に出てきてイラストレーターとして有名になる女性、寿退社をして専業主婦になりたいと思っている事務の女性の3人は、仕事は違うけど、それぞれの価値観をもった生き方をしています。

あるときその価値観が揺らぎます。

家庭をもちながら自分の好きな仕事をこなす女性ライターは、夫が家事をこなすが、男女が逆転した夫婦であるだけの旧態然とした関係であることに気づきます。結婚して寿退社する女性のことを古い考え方だとみなしていましたが、そうは言えない自分の状況に気づきます。
専業主婦になった女性は、妊娠して何もできず家に閉じこめられたような感じになり、昔の銀座での仕事を懐かしみます。

「家だけにいる君にはわからないことがたくさんあるんだよ」
「あなただって家のなかのことはなにもわからないじゃない」
すぐにそう言い返せばよかっだかもしれなかった。けれど、自分にはできない。
[窪美澄、『トリニティ』より]

いまの専業主婦の自分には何も言えず、仕事をこなしている2人の女性のようであれば、もの言いできたかもと思っている彼女がいます。


時代の中で、生き方を選び、または選ばざるを得なかった3人の女性たち。華やかなときは過ぎ、仕事の中心は若い世代に移っていきます。
三人三様の夢や憧れ。時代の変化や歳を重ねることで、変わる想いと変わらない想い。

いまは華やかな舞台にたつこともない3人の女性の生きてきた証や想いをみつめ、本を出版して残していきたいと思う、孫の女の子。世の中から離れ忘れられていく憂いを感じさせながらも、しっかりと生き方を残していきたいという女の子の思いにその先の希望をも予感させる物語でした。



読んでいて、ふと石井妙子さんの『おそめ』を思いだしました。

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著名人から愛され一世を風靡した京都木屋町と銀座のバー「おそめ」。そのお店を経営した一人の女性の上羽秀さんの一生を、石井妙子さんが描いています。

時代祭りの行列は、三条小橋から大橋に進む。この日、あたりは人で溢れていた。
私は柳の木を背に小橋の袂から、祭りを眺めた。
(中略)
水の流れのように続く女たちの列。その一人ひとりに、おそめがいた。巴の強さにも、和宮の才気にも、小町の優美さにも、私はおそめの面影を見た。
行列の先頭に、きっとおそめは連なっている。脈々と続く、女たちの流れ、その中に、上羽秀という女は生まれ、おそめとして生きたのである。
[石井妙子、『おそめ』より]

またじっくり読みたいなという気持ちになります。

2014年9月26日
石井妙子さんの『おそめ 』を読みおわる。再読でしたが、あらためて思いを深くしました。誰もが知っている文人や著名人に好かれた京都木屋町と東京銀座の『おそめ』。一世を風靡した華やかな時期と晩年のことが描かれています。そんなおそめさんの面影に、生きた時代に心を寄せます。



by momokororos | 2019-06-02 22:05 | | Trackback(293) | Comments(0)