人気ブログランキング |

寂しいということ〜メイ・サートンさんの『74歳の日記』

先日、近くの本屋さんで、メイ・サートンさんの新刊の『74歳の日記』を見つけました。

寂しいということ〜メイ・サートンさんの『74歳の日記』_e0152493_17272830.jpg



メイ・サートンさんの魅力はなかなか言葉では表わせないのですが、喜怒哀楽に満ちた表現と、歯に衣着せぬ言い方にもかかわらず、自分と対話し、相手と対話し、自然と対話しながら、その中でひとり生きることを省察していく姿には魅力を感じます。



サートンさんの日記の文章から。

4月13日 日曜日

やっと本格的な春らしい日。明るく輝く太陽、風はなく、遠くのほうからうみのささやき……というより、静かなとどろきが聞こえてくる。最初にここに引っ越してきたとき、何度も電車が通る音がしたと思ったのを思い出す。でもそれは海の音だった ー 通りすぎるのではなく、ずっとそこにある海の。
体が不自由になってよかったことがひとつだけある。何人かの友人が闘っている病気について、自分が健康だったときよりずっと気にかけ、共感できるようになった。日々くり返される小さな喜びや失望を分かち合うことで、互いにうちとけた気持ちになれる。元気いっぱいで健康そのものの人というのは、まったく役に立たない!
[メイ・サートン、『74歳の日記』より]



からだを壊したからこそわかるサートンさんの声が聞こえてきます。



いつものようにあちこちから花が届いたけれど、その花を活けるのは楽しみというよりは苦行だった。そんなこと、今まであっただろうか。こんなにたくさんの人が誕生日を祝って、私を喜ばそうとしてくれているのに、なんて狭量な人間なんだろう。でも「私」はここにはいない ー 皆からの花を受け取ったのは愚かで病んだ動物にすぎない。
[メイ・サートン、『74歳の日記』より]


狭量な人間に愚かで病んだ人間。余裕がないとき、体調がすぐれないときには、他人の優しさも他人への思いやりに欠けているかもしれません。それわ否定していないサートンさん。


そんなサートンさんを元気づける手紙の内容が載っています。


私のもっとも差し迫った課題は、何もしないこと。そしてそこに完全な満足を見出すことです。私の猫たちが伸びをし、体を覆う毛をなめ、満ち足りた顔で夢を見るように。そして自分が必要とするごくわずかな美しい物だけを置いて、横になります。シェイクスピアのソネット。ジョン・キーツの頒歌。
[メイ・サートン、『74歳の日記』より]


満足を何に期待しているのだろうか、と考えさせる一文です。

日記の中には、自然に耳を傾ける気持ちやお花を育てる話しも綴られています。病気でカラダやココロがまいっているときにも時折語られています。


外では目を見張るような変化が起きている。それをここに書くのを忘れていた。野原はちょっと変わったピンクがかった色に変わり、背の高い草が風にそよいでいる。そして野原を貫く細い小道は明るいエメラルドグリーン。その小道を通って海まで歩いていったのはもう半年以上も前のこと。でも海の音には今までにないほど耳を傾けている。海、それはけっして静止することのない偉大な存在。
[メイ・サートン、『74歳の日記』より]


自分で感じることを見つめるサートンさん。
回復してきたサートンさんはこう書いています。


元気を回復した今、春から夏になってもずっと、ついこの前まで感じていた強烈な寂しさはもうない。なぜ孤独だったかといえば、たくさんの友人たちがやさしくしてくれて、心配してくれていたにもかかわらず、私という存在の真ん中に開いた穴を埋められる人は誰もいないから ー その穴を埋められるのは自分だけ、自分が健康になるということだけなのだ。だから寂しかったのは、本質的には自分自身を失って寂しかったということ。毎日の健康なリズムを取り戻し、仕事もできるようになった今、全然寂しいとは思わない。
[メイ・サートン、『74歳の日記』より]


サートンさんの感じる寂しさとわたしが感じる寂しさは根本的に違っていて、サートンさんは強いなと思いました。
サートンさんの本を何冊か読んでいるにもかかわらず、まだまだ自分のものになっていないと感じていること否めませんが、サートンさんに惹かれるものをいつも感じます。


先日、東京神保町の東京堂さんを訪れたら、3階のフロアでジェンダーの本の特設コーナーがあったのですが、その中に、メイ・サートンさんの『独り居の日記』が選ばれていました。ジャンルに分けることのよしあしはともかくも、サートンさんはそんなジャンルにもあたるのかと思いました。

この『74歳の日記』に続いて『回復まで』も新刊として出版されていました。



『独り居の日記』〜メイ・サートンさんの喜びと葛藤
2016年11月18日の日記

ひとりだけの素敵な時間〜3冊の本より
2016年11月1日の日記








by momokororos | 2019-12-09 22:00 | | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : https://momokoros.exblog.jp/tb/28738958
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]


<< 変わらない魅力の筆致〜田島征三... 何にでもなれるわたし〜バーバラ... >>