週末はお部屋の本棚を眺めていたのですが、1冊も読みたい本が見つからない。 こんなにたくさん本があるのに、と思ったのですが、結局、土日は本は読まずに小学3年生の国語の教科書を見ていました。 読みたい本がないという気持ちをひきずっているのですが、読めそうな本がありました。 泉鏡花さんの『婦系図(おんなけいず)』です。 『婦系図』は、10年くらい前に、東京神楽坂のカフェのパレアナさんの店長さんからすすめられた本です。 すすめられた『婦系図』は、そのときは挫折して読めずじまい。さらに年を経て読もうとしてもう一度挫折しています。 数年前に、金沢の泉鏡花記念館を訪れてから、泉鏡花さんの本に惹かれ、また『婦系図』に舞いもどってきたという感じです。 酸漿(ほおずき)のくだりから始まります。 素顔に口紅で美いから、その色に紛うけれども、可愛い音は、唇が鳴るのではない。お蔦は、 皓歯に酸漿を含んで居る…… (中略) 既に昨夜も、神楽坂の縁日に、桜草を買った次手に、可いのを撰って、昼夜帯の間に挟んで帰った酸漿を、隣家の娘ー女学生に、一ツ上げましょう、と言って、そんなに野蛮なものは要らないわ! と刎ねられて、利いた風な、と口惜がった。 面当てと云うでもあるまい。恰もその隣家の娘の居間と、垣一ツ隔てたこの台所、腰障子の際に、懐手で佇んで、何だか所在なさそうに、頻に酸漿を鳴らして居たが、不図銀杏返しのほつれた鬢を傾けて、目をぱっちりと開けて何かを聞澄ますようにした。 コロコロコロコロ、クウクウコロコロと声がする。唇の鳴るのに連れて。一寸吹留むと、今は寂寞として、この声が止まって、ぼッと腰障子へ暖う春の日は当るが、軒を伝う猫も居らず、雀の影もささぬ。 [泉鏡花、『婦系図』より] 泉鏡花さんの色彩の表現については、これまでも素晴らしいと思っていましたが、色だけではなく音もいいなと思うくだりでした。 吾妻下駄が可愛く並んで、白足袋薄く、藤色の裾を捌いて、濃いお納戸地に、浅黄と赤で、撫子と水の繻珍の帯腰、向う屈みに水瓶へ、花菫の簪と、リボンの色が、蝶々の翼薄黄色に、ちらちら先ず映って、矢車を挿込むと、五彩の露は一入である。 [泉鏡花、『婦系図』より] 素晴らしい色の表現です。 読むのを挫折したこともある本ですが、ふたたび読んでみてやはり読みにくいですが、読みすすめることが楽しみにもなりえる1冊になりそうです。 色あふれる情景〜泉鏡花さんの『春昼・春昼後刻』 2017年3月28日の日記
by momokororos
| 2019-02-19 22:22
| 本
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