『魔法の夜』〜スティーヴン・ミルハウザーさん

スティーヴン・ミルハウザーさんの『魔法の夜』。

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しばらく前に手にいれて、最初だけ読んでいてそのままになっていた本です。

月の光が照らしだす光と影。
静寂さと無機質な月の光が織りなす雰囲気の中に、その夜に惹かれ、夜の闇に静かにまぎれだし、闇の向こうの世界を夢み、存在感を確かめる人たち。
そんな月の夜の硬質的な魅力と想いを感じさせる小説です。


茂みの中は木々に囲まれて暗く、月光の切れ端が点在している。(中略)少し経つと、開けた小さな場所、秘密の場所に出る。頭上の空は月の青さ、地上は月の影、月光の切れ端がさざ波のように木の根沿いを流れ、深い影に注ぎ込む。
[スティーヴン・ミルハウザー、『魔法の夜』より]


ミルハウザーさんの文章が素敵なのでしょうが、柴田元幸さんの素晴らしい訳とあいまって、夜と月が照らしだす光景と気持ちの描写に引きこまれます。


夏の月の下で夢の想いをめぐらせている。夜が自分の内にしみ込むのがわかる、あたしは夜と月の娘、あたしの髪は木々の枝の中を流れ、あたしの息は夜の空。あたしは幸せ、本当に幸せ、幸せなあまり大声で叫びたい。
[スティーヴン・ミルハウザー、『魔法の夜』より]


バーバラ・クーニーさんの絵本の『空がレースにみえるとき』を思いおこします。

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そのむかし大好きだったバーバラ・クーニーさんの絵本は最近ほとんどみなくなって、本棚の隅に押しやられてしまっていましたが、このあいだクーニーさんのことが好きな人と話したこともあって、引っ張りだしてきていました。

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クーニーさんは、月の絵本をいくつか書いているので、また読みかえしてみたいと思ってます。


月の踊り手、笛の夢見人、子供たちは開けた場所に集まってきて森の笛吹きの暗く甘美な音楽に耳を澄ます。みんな聴かずにはいられない。それは地中に棲む小妖精の音、海底に沈む都市の音。開けた場所で子供たちは耳を済ます。唇はわずかに開いて、目はベールに覆われ瞼は重く。
[スティーヴン・ミルハウザー、『魔法の夜』より]


モーリス・センダックさんの『ムーン・ジャンパー』も思いだします。

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誰も気づかないくらいひどくゆっくり昇っている月がメインストリートを照らす。道路の一方の側に月は深い影を投げ、もう一方には不気味な明るさをもたらし、そっちでは歩道は骨のように白く、パーキングメーターの小さなガラス窓は濡れているみたいにきらめく。居並ぶ商店のウィンドウの、ずっと奥まで見える。(中略)マネキンが履いている白いサンダルを照らす。マネキンの頬、細長い指、半開きの唇を月光が覆う。自分のファイバーグラスの肌を月光が貫くのをマネキンは感じ、それで心が落着き、気持ちが和らぐ。ひそやかな興奮を伴った、卒倒しそうな気怠さを彼女は感じ、己の本性の厳格な束縛が緩んでいくのを感じる。月の光線の下、マネキンの隠れた生が目覚めていく。指にかすかな震えが生じる。片方の手首がわずかに曲がる。サングラスの奥で、瞼がゆっくり閉じて開く。
[スティーヴン・ミルハウザー、『魔法の夜』より]


月の光に照らしだされるマネキンや人形たちが、気持ちをもち人知れず動きだす情景に、憧れにも似た共感を覚えるのは、わたしだけではないはずと思っています。

この本を読んでいると、月の光を意識しながら外に街に出たくなる気持ちが湧きあがってきます。わたしもこの魔法の夜の登場人物なのかもしれません。



『THE MOON JUMPERS』〜モーリス・センダックさんの絵本
2016年7月30日の日記




by momokororos | 2018-05-01 22:33 | | Comments(0)
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