井伏鱒二さんの『珍品堂主人』。
![]() 骨董の真贋をめぐるかけひきが面白く、大好きな小説の1つです。 少し前に小沼丹さんの随筆を読んだときに、姫路のおひさまゆうびん舎さんと小沼丹さんや小山清さん、そして井伏鱒二さんの話しをしていたのですが、この前のお片づけしていたときに『珍品堂主人』が出てきたので、久しぶり再読してみようと思いました。 「掘出しものを見つけて自分の所有物としたときの魅力に憑かれた」骨董屋の珍品堂主人。 珍品堂としては、自分でさんざ楽しんだ道具です。安く売っても元は取れているようなものですが、不思議なもので、そうは行かないところが骨董であるのです。 つまり来宮の持論の通り、自分の好きな女ぬ逃げられて行くような気持でした。いよいよ別れるとなると、どうしても金銭ずくでは割切れないものがそこにある。 [井伏鱒二、『珍品堂主人』より] 骨董を売り買いしたことないのですが、惚れて手放すときが自分の女に逃げられるのと似ているという感覚は想像しがたいです。自分が持っている本はほとんど手放したことはありませんが、そこまでの思い入れはないのではないかと思います。 そして手放した骨董がもどってきたときに、珍品堂主人は、「惜しみながら別れた可愛い女の子に再会したような気持」を感じています。 そして骨董をめぐるかけひき。 骨董を扱う同業者に珍品堂主人が「しめた」と思うくだりです。 これが一般の取引なら、その大和古印は贋物だと宇田川に云うべきです。しかし骨董気違いには、親子兄弟と雖も気を許してはいけないと云われている通り、珍品堂主人は「いい鴨だ、しめた」とばかりに顔色ひとつ動かさない。鼻ぐらいは少しぴくぴくさせたかもしれないが、知らん顔で云ったことでした。(中略) しかし骨董屋の間では、贋物をつかまされたら実力がなかったと思うよりほか致しかたないことになっている。 [井伏鱒二、『珍品堂主人』より] 白洲正子さんも骨董好きで、だまされたって話しを著書に書いています。 その道の専門家までも騙すくらいの贋作を作る手腕もすごいなって思います。 この珍品堂主人は、秦さんをモデルにしており、白洲正子さんは著書の中で秦さんのことを書いています。 『独楽抄』には、白洲正子さんと秦秀雄さんの対談が載っています。 ![]() 買うことが好きでなかったら、この世界ではもう落第生でね、と秦秀雄さんは言っています。 [白洲正子、『独楽抄』より] 『対座』には、珍品堂主人の話しと秦さんの『目ききの眼』の本について書かれています。 ![]() しぜんそれは「三千円で三十万円のものを買おうとする奴がニセモノだよ」という論理を生み、「ニセモノをつかんで来たら、返してはいけない。口惜しくてもじっとそれをもって、ニセモノらしさをよく便利させてもらうことです」というエチケットにまで及ぶ。 [白洲正子、『対座』より] 『雨滴抄』には、骨董の壺中居の2代目主人の広田煕の話しの中に、やはり珍品堂主人の秦秀雄さんがでてきます。 ![]() これは美術商ではないが、美術界の変わり種の中には、秦秀雄氏も入るだろう。今、井伏鱒二さんが、「中央公論」に、「珍品堂主人」という小説を書いていられるが、彼はそのモデルである。今のところでは、骨董の売り買いの面白さの話で、秦さんの人間は描かれいないが、よほどの人物であるらしい。 [白洲正子、『雨滴抄』より] 秦秀雄さんの著作の『見捨てがたきもの』もどこかにしまってありすぐにはでてこないのですが、いい本です。 器はときどき手にいれますが、骨董にハマルと身をほろぼすことになりかねないかもなのでおとなしくしています。
by momokororos
| 2016-10-28 22:49
| 本
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