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2017年 08月 18日

官能的な文章〜森鴎外さんの『青年』

森鴎外記念館で開催されている『森鴎外の「庭」に咲く草花』の展示を少し前に見にいきました。

この展示で紹介されていた鴎外さんの『青年』のお花のくだりの文章が魅力的で、『青年』を手にいれて読みました。

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谷根千(谷中、根津、千駄木)界隈を舞台にしており、私も何度となく歩いているので興味深いです。

こんな文章が目にとまります。

この時十七、八の、不断着で買物にでも行くというような、廂髮の一寸愛嬌のある娘が、袖を障るように二人の傍を通って、純一の顔を、気に入った心持を隠さずに現したような見方で見て行った。瀬戸はその娘の肉附の好い体をじっと見て、慌てたように純一の顔に視線を移した。
[森鴎外、『青年』より]

このお互いの興味があるかのような表現が魅力です。「じっと見て」のような表現はあとの文章にもいくつか出てきます。

森鴎外記念館を訪れたときに、展示されていた鴎外さんの文章に、『青年』の中のダリアのくだりがありました。前の日記では、展示されていた文章よりも長く紹介したのですが、さらに長く引用します。

主人公の純一が、谷中の初音町で貸家の婆さんと話しをしているくだりです。

その傍に二度咲のダアリアの赤に黄の雑(まじ)った花が十ばかり、高く首を擡げて咲いている。その花の上に青み掛かった日の光が一ぱいに差しているのを、順一が見るともなしに見ていると、萩の茂みを離れて、ダアリアの花の間へ、幅の広いクリイム色のリボンを掛けた束髪の娘の頭がひょいと出た。大きな目で純一をじいっと見ているので、純一もじいっと見ている。
[森鴎外、『青年』より]

先の文章もそうなのですが、男と女がじっとお互いを見るくだりがでてきて、結構官能的に感じてしまいます。

ちなみに初音小路というアーケードの商店街が、谷中の朝倉彫塑館の通り沿いに残っています。

さらに劇場でのくだりです。

純一の席の近処は、女の子客ばかりであった。 左に二人並んでいるのは、まだどこかの学校にでも通っていそうは廂髮の令嬢で、一人は縹色の袴、一人は菫色の袴を穿いている。右の方にはコオトを着たままで、その上に毛の厚いskunks(スカンクス)の襟巻をした奥さんがいる。
純一が座に着くと、何やら首を聚めて話していた令嬢も、右手の奥さんも、一時に顔を振り向けて、純一の方を向いた。(中略) スカンクスの奥さんは凄いような 美人で、鼻は高過ぎる程高く、切目の長い黒目勝の目に、有り余る媚がある。(中略)
この次の幕間であった。少し休憩の時間が長いということが、番附にことわってあったので、見物が大抵一旦席を立った。純一は丁度自分が立とうとすると、それよりも心持早く右手の奥さんが立ったので、前後から人に押されて、奥さんの体に触れては離れ、離れては触れながら、外の廊下の方へ歩いて行く。微なparfum(パルフュウム)の匂がおりおり純一の鼻を襲うのである。
奥さんは振り向いて、目で笑った。
[森鴎外、『青年』より]

鴎外さんの官能的ともいえる文章。鴎外さんはこんな文章を書く人だったのですね。

むかし読んだ『山椒大夫』や『高瀬舟』とはほど遠い感じがします。
『青年』みたいな作品が教科書に載っていたら、文学がもっと身近になったのではと思いまいました。

「森鴎外記念館〜千駄木あたり散歩」〜



by momokororos | 2017-08-18 05:07 | | Comments(0)


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