井上雪さんの『廓の女』。
前に手にいれて読みかけだったのを読み終えました。 金沢で明治時代から昭和に生きた山口きぬさんが主人公で、金沢の東の廓を舞台とした情緒溢れる物語です。 小説を、ことに泉鏡花のものをきぬはわかいころ好んだが、深夜こっそりとかくれて読むより方法がなかった。お座敷のつとめで疲れた身に、休息する時間をちぢめ、石油ランプの灯をほそめ、おっかさんの目をぬすんで客から借りた本を読んだ。鏡花が好きだったのは「ほりゃ人間やもの、一人さんを好きやら恋しいやら、ひとかどに思う年頃やったさけ。ほやけど、それが許されんさけ、なお、あの小説の夢のような語りに魅かれたがや」。 [井上雪、『廓の女』より] 小説の主人公のきぬさんが、泉鏡花さんのどの小説を読んでいたかは明記されていませんが、泉鏡花さんは明治6年に生まれで、『夜行巡査』や『外科室』を発表したのが明治28年、『高野聖』を発表したのが明治33年だから、ちょうどきぬさんが読んだ頃にあたります。 泉鏡花さんの物語はとりつきづらいのですが、じっくり腰をすえて読んでみようかなと思います。 浅野川の流れの情緒深いくだりです。 「三味線の稽古がすんで、女紅場から外へ出たさいな、浅野川が、きいらきいらと輝いとりみした。稽古場でなんとはなし肚の立っとったがも忘れっくらい、うっし川やった。川底の小石のうえに、すいすいと鮴が走っとりみした。川いちめんの、細かいちりめん皺の流れが眩して、ほんで、唄でもうたおうかァの気ィになりみすがや。」 [井上雪、『廓の女』より] 浅野川のせせかぎが目に映るかのようです。 文中で出てくる「鮴」は「ごり」。和食のお店ではこの鮴を食べさせるお店があります。ちょうど去年金沢で食べています。 金沢のうつのみや書店のこともでてきます。 小ぶとりの体にへこ帯で背中に子供をくくりつけられた姿のまま本屋にいく。片町の「うつのみや」の店に行って新聞を立ち読みするためだった。 [井上雪、『廓の女』より] 金沢生まれの人から「うつのみや書店」さんのことを聞いていたのですが、明治39年くらいの時期にうつのみや書店さんはあったのかな?と調べてみると、明治12年に創業していました。すごい老舗だったのですね。そういえば香林坊の109後の東急スクエアの地下に移ったうつのみや書店さんには、昔の写真が飾られていたことを思いだしました。 旗源平という金沢の昔の遊びも紹介されていて、そのくだりには福梅がでてきます。 勝った組には、福徳や福梅が貰えた。 (中略) 前田家の家紋と梅を形どった紅と白の福梅も、やっぱり最中の皮で包まれるお菓子である。 [井上雪、『廓の女』より] 福梅は、前に金沢に訪れていたときに見かけましたが、まだ食べていません。 ここしばらく行けず、想いだけが高まる金沢。行ったきりになりたいものです。 「金沢、そして京都への慕情」〜2017年 2月 15日の日記 http://momokoros.exblog.jp/25369448/
by momokororos
| 2017-03-23 22:49
| 本
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