大佛次郎さんの随筆の魅力〜『旅の誘い』

文学好きなら一度は聞いたことがあり、鎌倉に住居を構え、横浜の港の見える丘公園に記念館がある大佛次郎さん。
これまで大佛次郎さんの本は読んだことがありませんでした。書店の本棚でも見かけることがなく、ずっと読まずじまいになっていました。

学芸大学の流浪堂さんで、その話しをしたら、大佛次郎さんの文庫を出してきてくれました。

大佛次郎さんの『旅の誘い』。

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素敵な随筆でした。
お花や奈良、京都、鎌倉の話題もでてきます。

ある時、美しい茶色のものを庭に見つけて注意したら、すっかり末枯れたツバキの花が黄いろくなって枝に残っているのだった。美しく見えることもあるのだなと感心し、人間の老人が若い者などよりきれいに見える瞬間もあるのを思い出して、しぼんだ花にも人が気がつかない美しさがあるのかも知れぬと思った。美を、さかりの時だけに限って見ておく理由もない。紅や白や紫だけが美しいのでなく、冬の雑木の色もまたながめて倦きぬものがある。花だけが美しいのではない。自分が気がつかぬ新しいものを発見して行くことを心がけて忘れまい。
[大佛次郎、『旅の誘い』より]

枯れたお花も美しいと言っている人を、むかし何かの本で読んだことがあります。誰の本だったのか思いだせません。瀬戸内寂聴さんだったか、白洲正子さん、志村ふくみさんだったか。


京都の保津川の景観について人間か手をいれた自然の美しさのことを大佛次郎さんは書いています。京都のお寺のお庭や里山は、まさに人間が手をいれた美しさかなって思います。


十一面観音さまで有名な奈良の聖林寺のくだりものでてきます。

花の時分に、聖林寺の石段を昇って、枝垂桜の古木の花の咲く下から大和三山のある平野を眺めた。
[大佛次郎、『旅の誘い』より]

この文章を読んで、むかし聖林寺を訪れたときに、その石段を昇って風に吹かれながら奈良のひらけた風景を見たことを思いだしました。また行きたいなって思ってしまいました。


憧れの奈良の石舞台古墳のことも書かれています。

他の時に、これは光の明るい真昼であった。晩春の山々の新緑が鮮やかに美しい折に、小学生の遠足が石舞台を真中に、丘から四方の壕の緑の草に一面に散らばってお弁当をひらき、明るい声をあげて騒いでいたのに出会った。みんな小さい子供で、黄色い帽子をかぶって、紅や桃色や各種のセーターや上着の色が、草の上に雛菊をまきちらしたように明るく陽気であった。巨大な石舞台が、その中央に坐っていて、この古墳と子供たちとが、ふしぎな調和を作って、太古の石がいきいきと生命を蘇らせて来たように見えた。子供たちの騒ぐ声は春の空に吸取られている。それなのに黙っている石舞台が子供たちの声に答えて、何か話しているように見える。私はそれを何とも美しいと思って眺めていて満足した。
[大佛次郎、『旅の誘い』より]

石舞台古墳の大きな石の上にたくさんの子供たちが載った写真を見たことがあります。大好きな写真なのですが誰が撮ったのかわからなくて、また探して見てみたいと思っています。


大佛次郎さんは小さい頃に横浜に住んでいたこともあり、横浜の話題もたくさん書かれていて、横浜再発見って感じです。

by momokororos | 2016-10-21 22:49 | | Comments(0)

かわいいもの、ちいさなものが大好きです


by ももころろ